オープンエイト創業10周年特別インタビュー
CTOが語る、次の10年を拓くテックビジョン
株式会社オープンエイト CTO石橋 尚武
東京大学大学院在学中よりフリーランスのエンジニアとして活動し、2013年にデザイン制作会社THE CLIPを創業。 2016年オープンエイトにTHE CLIPを売却するとともに、オープンエイトのCTOとして参画。
2016年、創業間もないオープンエイトにジョインして以来、祖業である動画アドネットワーク事業や動画メディア事業「ルトロン」を軸とした広告・メディア事業からAIビジネス動画編集クラウド「Video BRAIN」を掲げてのSaaS事業への大転換、そしてAI時代への急激な進化まで、エンジニアリングと経営の架け橋として歩んできた石橋CTO。その視座から見たこの10年の軌跡、そしてこれからの10年を拓くテックビジョンについて語ってもらいました。
創業からの10年
変化を楽しみ、未来を形にしてきた日々
「変化は楽しい」。石橋がこの10年を振り返るとこのフレーズが何度も出る。
広告・メディア事業を展開していた創業間もないオープンエイト初のM&A先として参画した石橋。エンジニアとして、立ち上げたばかりの動画メディア「ルトロン」の開発を担った。
「毎月1,000本を超える動画制作をこなす中、社内の業務課題から生まれたのが、後の『Video BRAIN』の原型でした。動画を効率よく生成・編集できないかという課題から、自社向けツールの開発が始まり、そこからSaaSプロダクトへの転換に繋がったのです」
広告からSaaSへの事業ピボットは、エンジニアリングにも大きなインパクトをもたらした。特に「動画を誰でも扱えるようにする」という思想に基づくVideo BRAINの開発は、UI/UXからワークフロー構築、AIの組み込みに至るまで、従来とはまったく異なる技術設計を求められた。社内の数名でスタートしたプロジェクトだったが、動画生成アルゴリズムの精度と汎用性を両立させることに多くの試行錯誤を要した。「短期間での事業化」と「中長期の技術資産化」を両立させるための意思決定は、今振り返っても最も困難だったと語る。

技術の潮流
生成AIによる劇的なパラダイムシフト
現在、石橋が描く未来のキーワードは「生成AI」と「AIエージェント化」だ。
「正直、3年前の自分がいまのAIの進化をここまで予測できていたかというと、NOです。それほど急激に変化が起きています。特にLLM(大規模言語モデル)の登場は、プロダクト開発におけるゲームチェンジャーでした。」
Video BRAINやOpen BRAINといった既存プロダクトにも、生成AI技術はすでに自然に統合されつつある。今後は「搭載される」ことが目的ではなく、「当たり前に存在する」ものとして再設計されていくと語る。
「たとえば、動画編集やナレーション作成、要約、記事生成といった業務は、もはやAIによって自然に行われるものになりつつある。『AIで何ができるか』ではなく、『AIを使わない理由がない』というフェーズに入っていると感じています。」
生成AIの導入は単なる機能追加にとどまらず、開発プロセスや組織体制そのものの再構築を促した。設計から実装、テスト、ドキュメント生成に至るまで、あらゆる工程にAIが関与するようになり、開発スピードとクオリティの双方が大きく向上。エンジニアに求められる役割も変化し、「コードを書く人」から「AIを活用して価値を生む人」への進化が求められている。

CTOとしての役割
構想を超えて未来を創る“テクノロジーの先導者”へ
プロダクト志向のCTOとして、石橋が担ってきたのは、単なる「橋渡し」ではなく、構想のその先を描き、テクノロジーで未来を具体化する役割だ。
「スタートアップにおいて経営の意思決定は常に変化します。僕の役割は、その変化を受け止めたうえで、さらに一歩先の可能性を技術で切り拓いていくこと。経営陣の構想を受け取るだけではなく、それを加速させ、現実にする力こそがCTOの存在意義だと考えています」
戦略や構想にテクノロジーで命を吹き込み、単なる実行者にとどまらず、事業の進化そのものを技術で牽引する。その信念こそが、創業以来、石橋がオープンエイトで貫いてきたスタンスだ。
Video BRAINの立ち上げ時には、短期間での市場投入と品質担保の両立に苦心し、QCD(品質・コスト・納期)のバランスを見極めながら開発を推進した。生成AI時代においては、開発体制そのものを「AIを前提とした構造」へと再定義。社内では「AIを使っていないメンバーはいない」と言い切れるほど、徹底したツール活用と教育文化を根づかせた。特定領域に依存しないスキルシフトも求められ、技術×プロダクトの中長期戦略を支える開発組織へと進化しつつある。

次の10年
情報流通の未来をAIで支える「技術集団」へ
オープンエイトが掲げるビジョン「世界を豊かにするコンテンツテクノロジーカンパニーになる」。その達成に向けて、石橋は「AIエージェントによる全工程の自動化」に近づいていくと見ている。
「動画に限らず、情報の収集・要約・再構成・配信といった一連の流れのすべてに、今後はAIが深く関与していきます。特に生成AIの登場によって、情報流通の在り方そのものが大きく変わろうとしています。私たちが目指す『快適な情報流通の実現』という目標に対し、生成AIはその実現手段を次の次元へと押し上げてくれる存在です。 私たちの強みは、SaaSとして6年間積み上げてきた顧客データと、それを支える活用基盤にあります。日本企業が重視するプライバシーやセキュリティへの配慮を前提に、これらのアセットを最大限に活かしながら、生成AIを組み込んだプロダクトの進化をこれからも加速させていきます。」
AIによって業務が代替されるのではなく、個々の生産性が増幅され、これまで取り組めなかった領域にも踏み込めるようになる。それを牽引するのが、少数精鋭かつ柔軟性の高い技術組織だ。
「この先10年を見据えたとき、技術の進化を正確に予測することは誰にもできません。だからこそ大切なのは、変化を前向きに受け入れ、それを楽しみながら自分たちの糧にしていく姿勢だと思っています。 変化に柔軟に対応できる組織、変化を楽しめる仲間がいること——それこそが、オープンエイトの技術的な強さです。僕自身も40代を迎えますが、これからもその柔軟性を忘れずに、次の10年を全力で楽しみながら走り抜けたいと思っています。」
ユーザー企業の皆様へ
AIビジネス動画編集クラウド「Video BRAIN」ならびにAIナレッジマネジメント「Open BRAIN」を導入いただき、日々ご活用くださっていることに心より感謝申し上げます。皆様からいただく現場視点でのフィードバックや率直なご意見を積極的にプロダクトへ反映してきたからこそ、Video BRAIN と Open BRAINはここまで進化を遂げることができました。これからも皆様と共に、テクノロジーの力で「快適な情報流通」の実現を目指してまいります。
株主・投資家のみなさまへ
生成AIの進化は、あらゆる業界・業務の構造に影響を与え、すでにビジネスの根幹に関わる技術となっています。私たちオープンエイトは、動画という得意領域に加え、AIとデータを活用した情報流通テクノロジーの推進を通じて、次の10年も社会にとって価値あるサービスを生み出し続けていきます。
「技術こそが未来をつくる。」そう信じて、私たちは挑戦を続けてまいります。